あたたかくなってきた風が、どこからともなく花の香りを運んでくる季節。
木々が芽吹き、つぼみがふくらみ、小鳥が高い声でさえずり、どこか浮足立っているようにも見える。
車を走らせること2時間以上。
道路に人の気配が少なくなり、生い茂った草木が主役になる。
ようやく車を降りると、近くでさらさらと水の流れる音がする。
平地では聞けない鳥の声。
木の葉の影が地面に落ち、木漏れ日が風に揺れてきらきら輝いている。
木々の合間を縫って歩き、急な斜面を下っていく。
岩肌が露出しごつごつとした中を、清らかな水が勢いよく流れるのが見える。
落ち葉も泡沫もさらい、花びらものせて、とどまることなく流れ続ける。

上に上に歩き続けると、ざあっと大きな音を立てる小さな滝に遭遇する。
深くえぐられた場所にひとときの間とどまる水は、青とも緑とも言えるような美しい色になる。
一年を通じて青く茂る葉と、水同士がぶつかってできた白い泡が、いっそうその色を引き立てる。

やはり、渓流というのは日本が誇るトップクラスの美しい景観ではなかろうか。
山が多いこの国だからこそ数多存在する、涼やかで引き込まれるような、流れのはやい川。
父が魚釣りを趣味とし、私も弟も幼い頃から幾度となく連れて行ってもらった。
私の周りにそんな子はいなかったから、貴重な経験だったのかもしれないと今になって思う。
3月は、ヤマメ釣り解禁の月だ。
待ちわびた釣り人たちは、平日仕事を休んででも川に足を運ぶ。
それだけヤマメにも、山にも川にも虜にされているということだろう。
一度渓流に魅せられれば、離れるのは難しい。
私の経験から清流の魅力をお伝えしようと思うと、こんな文章になりましたがいかがでしょうか。
浅葱色、と名前をつけていますが、私がイメージしたのは上流の綺麗な川の、深い部分。
青みの強い、深みのある青緑色です。
浅葱(あさぎ)とは、もともとはネギの青い葉の部分。
それを少しうすめたような色を指すそうです。
果たしてネギがそんな色をしているのか個人的には疑問ですが…
漢字や音の響きが綺麗だった上、私の思う青緑を指すならこれかと思い、浅葱を選びました。

自分で言うのもなんですが、このクリスタル、渓流を思い起こさせる良いデザインではないかと自負しております。
深みはあるけれど、決して暗くない青緑色。
鮮やかな色を出したくて濃いめに色を乗せても、エポキシレジンによって抜群の透明度が保たれます。
どの色を使うのか、濃さはどれくらいにするのか…
試作を繰り返して、一番納得できる比率を編み出しました。
そして、いつもランダムに削って形をまとめていく面取り加工。
これにより光があたるときらっと輝いてくれます。
いい塩梅で面を作ってあげることで光る面と影になる面ができ、まさに渓流の水面(みなも)のようなコントラストが生まれます。


光の当たり方によっても、少し色の見え方は変わりますね。


きれいな渓流には、釣りに行くか、山登りをするか、はたまたそこに住まうか…とでもしなければ、なかなか出会える景色ではないかもしれません。
拙い私の文章くらいでは、実際に清流を目にした時のような、心の底からわくわくするような感覚のすべてをお伝えするのは難しいですが、少しでも臨場感を味わっていただけたら嬉しいです。
では、今回はこの辺で。